心理学たんのブログ

心理学の文献紹介や理論を分かりやすくまとめることを目指します。

心を科学するって? 1 ―心理学の研究方法―

最初にも述べた通り,心理学は心の科学であるといわれます。

科学である以上「ただなんとなくそう思うから」や,「自分はこう思う」ではなく,それを実証するためのデータを得る必要があります。

そして,同じ手続きを用いた場合同じ結果が得られる(再現性)ことが必要となります。

データを得る方法には,ざっくりといって3つの手法が考えられます。

1つは,調査法といって質問紙という特定の性格特性などを測定するアンケート用紙を用いてデータを得る方法です(e.g. 不安を図るSTAIという質問紙を用いて不安の感じやすさをデータ化する)

この方法のメリットは,一度に大勢のデータを取りやすい事です。実験者は,教室にいる人に一斉に質問紙を配布して,前でまとめて解説するだけで十分です。

デメリットは,質問の内容から実験者の意図を推測されやすく,こう答えて欲しいんだろうなという推測から正しい回答を書いてもらえないということが起こり得ることです。

 

2つ目は,実験法です。これは特定の実験環境を作り,その中で様々な研究を行う方法です。ここで用いられる方法は多種多様なので,今後折を見て触れていこうと思います。

この方法のメリットは,参加者によるデータのゆがみが生じにくい事です。

デメリットは,実験は一度に大勢に行えない分時間がかかりやすい事や,意図的に作った実験状況下で得たデータは,実生活の中で起る心的現象と同じであるとどこまで保証されるか疑問視されること生態学的妥当性)が挙げられます。

 

3つ目は,観察法です。これは,特定の状況下で参加者がどんな行動を取るのかを観察し,それをデータにする方法です。

観察には,直接観察法や,マジックミラー越しに行う非参加観察法などがあります。

この方法のメリットは,言葉を発することのできない乳幼児や,言葉で意思疎通の難しい外国人の方も対象にできることです。

デメリットは,観察結果を客観的なデータにし難く,観察者の主観が入りやすい事です。

 

 

さて,ここまではどうやってデータを得るかの話。研究をまとめる際には,得たデータをきちんと処理する必要があるのです。

たとえば,性別の違いが身長の発育に与える影響について研究するとしましょう。この場合,身長をデータとして取ってくるわけですが,男性の平均身長が165cm,女性の平均身長が160cmだったという結果が得られたとしましょう。

では,このデータを基に「男性の方が女性より身長が高くなる」と結論付けることができるでしょうか? 出来ないんですよ。

このままでは,偶然差があるように見えるだけのデータが得られたという可能性を捨てきれないからです。偶然なら,性別が身長に影響を与えるとは言えませんよね。

そこで使われるのがt検定です。

この検定は,2つのデータに統計的に意味のある差があるかどうかを調べるために行います。言い換えると,この検定を行うことで2つのデータの差が偶然生じたものなのか,性差によって生じたものなのかがはっきりするわけです。

たとえば,次のように男性(M)と女性(F)の身長データを20ずつ集めたとしましょう。

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これを,さてこれをt検定するわけですが注意して欲しいのはt検定には複数の種類があるということです。

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分散が等しくないと書いてあるやつは無視してください。その上の2つ,一対の標本と等分散を仮定したとあります。

この2つはよく使う割に,よく間違えられるのでここで覚えてください。

「一対の標本~」は,1人の参加者が複数の条件で行ったものの条件ごとの差を見るものです。(対応のあるt検定といいます)

「等分散を仮定した~」は,条件ごとに参加者が異なる物の条件ごとの差を見るものです。(対応のないt検定といいます)

さて,今回の性差の場合はどちらでしょうか?

もちろん,対応のないt検定となります。らんまみたいなアニメキャラじゃない限り,女性としても男性としても両方で身長測定を行うことは不可能だからです。

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t検定の結果はこのように出力されます。

まず初めに見て欲しいのが,P(T<=t)両側と書いてある部分です。

この部分が,上述した偶然(性差じゃなく)身長の差が生じる確率(有意確立)です。

今回は,6.09E-10と書いてあるます。これは,6.09×10の-10乗という意味で,0.0000000006.09の確率でこの差が偶然生じるという意味になります。これはとても低い確率です。

心理学の場合は,0.05より低ければ偶然ではなく意味のある差だと解釈していい事になっています。

よって,今回用いたデータでは身長は性別の影響を受けると解釈していい事になります。

ちなみに,まとめ方は

性別が身長に与える影響を検討するために,男性と女性の身長データを測定し,対応のないt検定を行った。その結果,男性と女性の身長差には有意な差があった

(t(38) = 8.21 , p < .001)。よって,男性の方が女性より身長が高いといえる。

ちなみに,有意差が出なかった場合はp < .001の代わりにn.s.(not significant)と書くことになります。

とりあえず,長くなってしまったので続きは次回にします。

 

血液型性格診断の虚偽

数年前だったでしょうか?

〇〇型の取扱説明書とかいう本が流行しましたね。

このブログの読者様にも,少なからずその本を手に取った方がいるのではないかと思います。いえ,その本でなくても年に数冊は血液型に関連する性格の本が出ているのではないでしょうか。

残念ながら,世間にはその本を信じて「A型の人って融通聞かないんだよねwww」と血液型でその人を判断してしまう人がいるのです。

では,本当に血液型は性格に影響を与えるのでしょうか?

結論から言うと,心理学の常識では「血液型が性格に影響を与えるとは言えない」と考えられています。

たとえば,松井(1991)は以下のような研究を行っています。

対象者:全国から無作為抽出(ランダムに選択すること)した約3000人

調査方法:血液型と性格特性(e.g. 誰とでも気軽に付き合う)に当てはまるか否かで回答。

結果:血液型によって性格特性は認められない。たとえば,A型と他の血液型の性格特性の回答を見たときに,A型だけ高いもしくは低いという回答がなかった(有意が認められなかった)。

また,項目によっては有意差を認められても,その後の調査(松井は4回調査している)では差が認められなかったり,差が認められても1回目はA型で認められたのに2回目ではO型で差が出るなどばらつきが大きかった。

これらの結果から,「血液型は性格に影響を与えるとはいえない」と結論付けることができます。

 

 

ただ,この後面白い研究が出ていて詫摩・松井(1985)は,次のような研究を行っています。

目的

 ①血液型によって性格が異なるか検討する。

 ②血液型と性格の関係を信じてる人数の調査。

 ③この関係を信じてる人とそうでない人との性格特性の違いについて検討する。

 

方法

 調査法。調査内容は,

 ①血液型

 ②能見(1984)の研究で血液型によって違いが出やすいとされている性格特性について「はい・?・いいえ」のいずれかで答えるもの(3件法

 ③血液型で性格が異なると信じる度合いを「非常に異なる・かなり異なる・あまり異ならない・全く異ならない」の4件法で尋ねたもの

 ④性格特性に関する質問

結果

 血液型による性格の違いはほとんど観察されなかった

 血液型と性格の関係を信じる人の特徴として……

 ①他者と親密になろうとする傾向が強い(親和欲求

 ②権威への追従欲求が強い

 ③感情の起伏が激しい

という特徴が観察されました。

 

このように,心理学的には「血液型と性格に関係があるとは言えない」と考えられているの。

そもそも,〇〇だから××といった因果関係を問うことは慎重にならなければいけないことなのです。

次回は,その事も踏まえながら心理学の研究方法について解説しようと思います。

ここまで読んで下さり,ありがとうございます。

 

【参考文献】

松井豊 1991 血液型による性格の相違に関する統計的検討 立川短大紀要,24,51-54

能見正比古 1984 血液型エッセンス 角川書店

詫摩武俊・松井豊 1985 血液型ステレオタイプについて 東京都立大学人文学部人文学報,172,15-30

自己紹介と方針

はじめまして,心理学たん(@psycho_tan)の中の人です。

今までは,ホームページやTwitterで活動してきましたが,今後はホームページの方の更新を停止し(というか,更新パスワードを紛失したため)こちらのブログにて活動を継続していこうと思います。

 

私の自己紹介をさせてください。

私は,大学で心理学を専攻している大学生です。

私が,心理学たんを運営しようとしたきっかけは心理学についてもっと多くの方に知っていただきたかったからです、

昨今心理学のブームが到来しているように感じます。本来であれば,大変喜ばしい事ですが残念ながら実際はあまり望ましくないことになっています。

詳しくは次回以降触れようと思いますが,未だに血液型性格診断をさも正しいもののように扱った内容や,心理学を使えばさも相手の心が読めるかのように謳っている書籍,心理学の理論を誇張し○○すれば意中の人を落とせると歌った恋愛心理学の本など,悪例を挙げだせばきりがありません。

これらを解消するために,私は以下のような方法をとろうと思います。

①各理論について,なぜそういえるのか先行研究を紹介する。

 →学問としての心理学は,心の科学といわれています。

  科学である以上,何らかの研究を行ったうえでデータを処理して結論を導きま

  す。

  ただ,多くの一般的な心理学本ではこの実験手続きについては言及していない物

  が多く,そうなるといくらでも誇張できることになってしまいます。

 

②参考文献を紹介する

 →いくら,適当な心理学本が多い世の中でもきちんとした心理学本もあります。

  私のブログでは,これらの紹介も併せて行っていきますので興味を持っていただ

  けたら一度手に取っていただけると,理解も深まりやすいと思います。

 

最後になりますが,本ブログで使用した図表やファイル,文章はご自由に2次利用していただいてもかまいません。事前・事後問わず連絡は不要です。

ただし,インターネット上で私の文章や図などを使用する場合は,一言こちらから引用したと明記してください。リンクは不要です。

それでは,これからよろしくお願いします。